市金工業社 R1工場

産業用機械を製作する企業の工場とオフィスの計画です。
計画敷地は新しい住宅地と工業地域の境目に位置しており、東南は戸建て住宅に、西北は工場と倉庫群に囲まれています。小学生が通学する風景の中に無機質な工場が建ち並ぶ、そんな日常的な生活の風景と産業的な風景が重なりあうような場所でした。
加えて環境に貢献した製品づくりを積極的に行う企業理念を体現する工場としての在り方も同時に求められました。
このような立地と背景から、住と工の重なる地域の風景に馴染むような存在としてのやわらかな佇まいを持ち、自然エネルギーを利用したサスティナブルな工場を目指すこととなりました。

工場棟の巨大なボリュームを覆うヴォールト状の大屋根、搬入用の大庇、オフィス棟の曲面屋根といった、3枚の屋根を用いて遠景・中景・近景の風景を形づくっていきました。
工場建築において普遍的なエレメントを用いつつもそれらの形状や素材に手を加えていくことで、住と工、両者の風景に馴染むような佇まいとしています。

前の通りに面するオフィス棟の屋根は内部の機能に合わせて屋根の高さを変化させていくことで、ねじれた曲面型の屋根となりました。
歩行者や車から見ると、見る角度によって表情が変化していく楽しげな存在になっています。
エントランスに向かって軒先を上げ来客を迎える一方、会議室に向かって棟を上げることでハイサイドライトを生み出し、自然光によりやわらかな光を室内に取り込んでいます。

住宅地方向を向く搬入用の大庇は軒裏を杉板で木質化し、鉄骨梁と方杖を現しとして反復させ、小さなスケールへ分節化することで住宅地側への表情とスケールに配慮しています。
大きな木の面でつくられる軒下空間は、庇下を行き来する作業員にとっても心地のよい場所となっています。
夜はシームレスラインによる照明により穏やかな表情をつくっています。

大きく膨らむヴォールト屋根は、平屋根の工場が建ち並ぶ風景の中でやわらかなシンボル性を持ち、市街地の新たな風景を形作ると共に、近くを通る東海道新幹線など遠景からの視認性を高めています。
内部空間においては作業の性質上窓のない空間ながら、包まれるような大らかな空間性を生み出しています。
また大きな屋根面を利用した太陽光パネルにより施設内の電力供給と非常時用の蓄電を行い、大屋根の雨水を貯水して施設内の中水利用や植栽帯への灌水として再利用を行っています。

前の通り側には、季節感を感じさせる多種多様な植栽を施しています。
人工的な風景が広がる工業地域と小さな庭の集まる住宅地の境目に位置するランドスケープの在り方として、奥行きと立体感を生むレイヤー状の植栽構成により地域の風景に彩りを与えました。


共同設計:内田組・塚田裕之建築設計事務所
施工:内田組
構造設計:MOF
照明設計:ツキライティングオフィス
植栽設計:カナデ設計
敷地:滋賀県栗東市
規模:鉄骨造1階建
写真:貝出 翔太郎