
傘の架構に包まれた終の棲家
定年後のご夫婦が住まう終の棲家としての住宅。既存の子世帯住宅に増築を行い、生活分離型の2世帯住宅へと再構成した。
これまで多忙な日々を過ごしてきたクライアントにとって、住まいはもっぱら就寝の場に過ぎなかった。その経験から、以前の住まいでは得られなかった光に満ちた空間を切望されていた。併せて車椅子での生活にも対応したバリアフリーな計画が必要とされた。
しかし敷地の歪な形状に加え、条例による壁面後退義務により増築できるのはわずか11坪の不整形な範囲に限られていた。加えて北側斜線による高さ制限、隣地との高低差による崖条例もかかる制約の厳しい敷地であった。こうした条件下において、クライアントの望む光と鎌倉山の豊かな緑を享受しながら静穏な老後を過ごせる住まいの在り方を探っていった。
平面のアウトラインは不整形な敷地形状を反映した変則的な五角形としている。北側斜線による高さ制限をかわしつつ気積を最大化できるよう、切妻と方形を組み合わせた変形屋根を架け、その頂部を丸太の大黒柱で受ける傘状の架構を形成した。
歪んだ五角形平面は多方向性と複数の隅角を生み、切妻と方形を組み合わせた変形屋根は高さ方向の転調をもたらす。こうした平面と屋根の掛け合わせから生じる多様な場の性質に応じて開口を配置することで、延床21坪という限られた空間に様々な光の相を取り込んでいる。
1階は水回りとダイニングキッチンを円環状に配置し、車いすの動線を簡潔なものとしている。南側には隣家が迫るものの、北側斜面の緑を取り込むキッチンの開口、東の路地に向けた吹抜のハイサイドライトにより、淡くやわらかな光で満たされる静謐な空間となった。
屋根架構に包まれた2階は南側隣地との高低差を生かした大開口を設け鎌倉山の緑景を取り込んでいる。一方で、不整形平面と変形屋根により生まれる余白を利用して書斎やロフトを配し、大らかな空間とニッチな空間を同居させている。
こうして一見ネガティブに見える敷地の条件を、この住宅を形式づける要素へと読み替えることで、コンパクトな空間ながら変化に富むシーンが立ち上がった。





































構造設計:小島大輔構造設計事務所
施工:大同工業
写真:髙橋 菜生
敷地:神奈川県鎌倉市
規模:木造2階建
