建物の性能向上リノベーション2 建物の構造や劣化の調査

改修を行う際は、設計の前にまず詳細調査を行い、建物の構造(骨組み)や劣化状況を把握します。
内観や外観だけでなく、床下や小屋裏にも入り、確認できる範囲は可能な限り調査をして建物の不具合を把握することで、解体してからの想定外の工事をできるだけなくすようにしています。

現状の図面を起こすための採寸

建てられた当初の図面が残っていない場合は、採寸を行って図面を起こしていきます。
図面が残っている場合でも、時代によっては実際の建物と異なることも多くみられます。そのため図面の有無にかかわらず、実際に採寸して図面との整合性を確認していきます。

まずは事前調査で簡易的に採寸を行い、その後本調査で詳細な寸法を測定し、図面化を行います。
上の図は事前調査で採寸したときの野帳です。
同時に水平器や下げ振りを使って床や壁の傾きも測り、床の下地が使えるか、構造躯体が傾いていないかを確認していきます。

このように各部屋の展開図も採寸し、室内の建具寸法なども記録しています。

床下や小屋裏を確認して構造を把握する

室内からだけでは表面的な状況しか把握できないため、床下に潜ったり天井裏を確認して基礎や柱・梁などの構造材の状況を確認していきます。
天井や床に設けられた点検口から入って確認しますが、もし点検口がない場合は押入れの天井が簡単に外れることもあります。
床下や天井裏に入れない場合は、改修を前提として一部を解体することもあります。

写真は床下の様子。健全な部分もありますが、湿気が原因で土台が一部腐朽しており、シロアリの蟻道が確認できる箇所もありました。

木の土台に水分計を当てて、木材が必要以上に水分を含んでいないかを確認しています。

2階の天井裏からは、屋根の骨組みや屋根の下地の状況が確認できます。この例では屋根下地に雨漏りの様子が見られ、屋根の葺き替えが必要なことが判断できます。

木材同士の接合部に金物が使われているかどうか、また耐震要素となる筋交いがあるかどうかも、天井裏を確認することである程度把握することができます。
この事例では筋交いと金物はありますが、筋交いと柱の接合が不十分でほぼ耐震の効果が期待できないことがわかります。
現在のような金物についての明確な規定がなかった頃の建物は、このように金物が使われていても、不十分な接合になっていることもあります。

改修前提で一部破壊もできる場合は、部分的に壁を壊して壁の構成や柱の位置、断熱材の有無を確認していきます。

基礎の鉄筋の有無や強度を確認する

耐震上も重要な部位である基礎は、鉄筋の有無やコンクリートの強度を確認して、補強の計画を行います。
基礎の鉄筋の有無は建てられた年代からおおよそ想定できますが、鉄筋探査機を用いて、基礎の中に鉄筋があるかどうかを調べることができます。

写真は基礎でなくコンクリートブロック壁の鉄筋の有無を調査している際の写真ですが、壁に当てている器具が鉄筋探査機です。

またシュミットハンマーという器具を用いて、基礎のコンクリートの強度も確認します。

築63年だったtedeは建てられた年代や鉄筋探査機による調査から、中に鉄筋がないことが把握できたため、新しい基礎の鉄筋を既存基礎に差し込む形で補強を行いました。

劣化箇所を確認して原因を推測する

床下・天井裏と合わせて、外壁や屋根、基礎などの外回りや室内に劣化箇所がないかを確認し、その原因を推測しながら必要な措置を計画していきます。

この建物では天井に染みが見られ、直上の天井裏をのぞくと屋根に雨漏りの形跡が確認できました。

土台の腐朽が見られたこの建物では、土から湿気が感じられました。
敷地の地盤レベルが周りより低く、地中に浸透した雨水が基礎下を通って床下の湿気の原因になっていることが想定されました。
そこで建物周りに土間を打ち、新しく雨水枡を設けて水はけを改善し、雨水の床下への浸透を防止する改修を施しています。

増築や改修が繰り返されている建物は、電気や給排水管が複雑になり、メンテナンスできない状態になっていることもあります。
そうした場合には、改修時にメンテナンスしやすいように改善することも考えていきます。

このように一通り建物を調査して、劣化箇所や骨組みの状況を把握したら、図面化と各性能の可視化を行なっていきます。
次回は既存建物の性能の可視化について書いていきたいと思います。